日本の路線図はやっぱりクレイジー?
今や日本を訪れる外国人観光客は3000万人を超え、この10年間で3倍以上の伸びを示しています。鉄道を始めとした公共交通機関は観光客にとって重要な足となります。幸い、我が国は都心部を中心に鉄道網が発達していますから、外国人も安心して様々なエリアへ移動することが出来ます。定められたレールの上しか走らない鉄道は、バスやタクシーと異なり、一種の安心感があります。
しかし、一方で、あまりにも発達した路線網から、東京の地下鉄の路線図を中心として、わかりにくい、クレイジーだという声が上がるのも事実です。しかし、世界には東京と同規模か、それ以上の路線距離を持つ地下鉄網も存在します。では、何故、東京の路線図が難しいと言われるのか、果たして本当にそうなのか、検証してゆきたいと思います。
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世界の都市の地下鉄営業距離ランキング
現在、世界のおよそ170の都市で地下鉄か、それに準ずる都市鉄道が運行されています。その中で東京の地下鉄の総延長は東京メトロと都営地下鉄の営業距離を合計しておよそ300㎞。長いと思われるかもしれませんが、これは世界で第8位の長さであり、東京よりもより大きな地下鉄路線網を持つ都市は存在します。ちなみに、利用者数では東京の地下鉄が世界一です。世界の各都市の地下鉄路線距離の10位までのランキングをすると以下の通りです。
世界一の地下鉄網を持つのは中国北京、それだけでなく上位を中国の都市が占めています。成長目覚ましい中国の都市では引き続き地下鉄の建設が進んでおり、今後ますます総延長が伸びることでしょう。
そして、東京の地下鉄ですが、実はロンドンやニューヨークよりも短く、意外と思う人は多いかもしれません。しかし、これでは東京の路線図が見づらい、難しいと言われる原因には至りません。
世界の難しい地下鉄路線図ランキング
しばしば、海外のネット掲示板などのネタとなる、難しい路線図ランキング。明確なランキング付けは難しいですが、毎回常連となっている都市は同じです。しばしばネタにされる都市を示すと以下の通りです。
アンケートの取り方や、その時期によって順位は変わりますが、面白いのは総延長上位を占めていた中国の地下鉄はほぼランク入りすることがありません。つまり、観光客が少ない都市は、仮に路線が複雑に入り組んでいたとしても、路線図が難しい都市として注目されないのです。難しいとやり玉に上がる裏には、それだけ注目されているということでもあるのです。
しかし、それにしても、これら路線図は複雑に入り組んでいて、初めて利用する人は、おおよそにして混乱するでしょうが、それはどの都市も同じで、東京だけが難しいということにはなりません。そもそも、誰にでもわかりやすく!を目指して路線図は作られているわけですから、デザイン的にも大差は有りません。路線ごとに色を分けると言うのも各国共通です。
世界には大きく分けて、2つの路線図の作り方があり、実際の地理関係に則りながら作成するタイプと、実際の地理関係は無視して、直線的に描くタイプの2つがあります。いずれにも、メリット、デメリットがあり、どちらが良いかとは断言できません。東京の路線図は長らく、都営地下鉄が前者を、営団地下鉄(現東京メトロ)が後者採用していましたが、現在はいずれも前者を採用しています。
本当に東京の地下鉄路線図は見づらいか?
ただ、これらの国の路線図を見比べてみると、決して東京の路線図が見づらいとは言えないような気もします。
路線の線が太く、はっきりとした色使いで各路線を区別しているため、非常に見やすく、各駅の表示も大きく、乗換駅は四角く枠で囲っていて一目瞭然です。しかも、基本的に1つの線路に1つの路線しか走っていない(有楽町線・副都心線の和光市~小竹向原間除く)ため、乗り間違えることもほとんどありません。実際、外国人から、乗ってしまえば意外に簡単というコメントも多く出ています。
乗り換えに関しても、他の都市の方がよほど難しいとも言われており、路線図で網羅出来ない部分は、駅の詳細な案内サインなどを含めて、補い、トータルで利用しやすくしているのが、東京の地下鉄と言えるでしょう。案外、駅の案内が充実していないというのか、海外の路線でしばしばあることです。
それでも東京の路線図が難しいといわれるわけ
しかし、依然として東京の地下鉄路線図は難しいと捉えられがちです。それは一体なぜなのでしょうか?簡単に言うと、東京には地下鉄以外のJR、私鉄がそれぞれ別個に運行されており、外国人の目からすると、それらの違いがわからないというのが最大の要因と私は考えています。
世界の鉄道は、都市部の運行に特化する地下鉄(またはMRTと呼ばれるもの)と、国鉄をルーツとする都市間長距離の運行に特化する鉄道に分けられ、両者が全く異なる乗り物と認識されています。国鉄の線路が都心部にあったとしても、2分や3分毎といった高頻度で電車が走ることはありません。機関車などがけん引する重厚長大な列車がたまに走るのみです。一方、東京では国鉄(JR)の線路にもひっきりなしに通勤電車がやってきます。加えて、都心と郊外を結ぶ私鉄路線も非常に発達しています。そして、地下鉄がこれら路線と直通運転をしているわけです。
つまり、世界的には都市の鉄道=地下鉄ですが、東京では地下鉄だけでなく、JRや私鉄も似たような役割を持っているのです。地下鉄の直通運転範囲を地下鉄をみなすだけでも、総延長は900㎞を超え、世界一の距離となります。ちなみに、地下鉄とそれ以外の鉄道が直通運転するという例は世界的にも珍しく、韓国のソウル地下鉄が国鉄の通勤路線と乗り入れを行っているくらいです。
各社の路線図が全部違う
しかも、これら東京の地下鉄、JR、私鉄を1枚に収めた路線図というのが、これまた意外なのですが、近年まで作成されてきませんでした。それぞれ、各社が自社と乗り入れ範囲のみを示した路線図を作成し、車内やホームページ上に出していたからです。全線を網羅した路線図が作られたのは、PASMOが誕生し、1枚のICカードで私鉄、地下鉄とJRが共通利用できるようになってからで、2007年のことです。
しかしながら、この路線図はPASMO協議会のホームページにしか基本的に掲載されておらず、知る人ぞ知る路線図としての性格が強いです。とはいえ、この路線図を外国人が見たらかえって混乱するかもしれません。東京を中心として半径100㎞超の圏域に網目のように路線網が広がっているわけですから・・・。ですから、地下鉄だけでなく、東京の全ての鉄道路線図と海外との比較対象にした場合、世界一クレイジーな路線図に認定されることは紛れもない事実でしょう。
相互乗り入れでさらに複雑に
そして、相互乗り入れで地下鉄には私鉄やJRの車両も入ってきます。例えば、路線カラーが茶色の副都心線ですが、茶色の東京メトロの車両以外に、赤や青、オレンジといった他社の車両も入ってきます。
特に気にせずに乗ってしまえばいいのですが、車内に出ている路線図は、各社様々。デザインも違えば、掲載範囲も異なります。一番問題なのは、乗り入れてくる他社の車両に、ほとんど地下鉄の路線図が出ていないことでしょう。最近は少しは増えましたが、それでも全てではありません。これには外国人も混乱するでしょう。しかも、最近は液晶ディスプレイで必要な範囲だけを表示する車両も増え、紙の路線図を貼っているということが少なくなりました。
貼っていても、以前よりサイズが小さくなり、見にくいです。とはいえ、近年では、このような面的な情報よりも、目的地までの二地点間の情報をアプリで得る人が増えてきましたので、あまり大きな問題ではなくなるのかもしれません。
まとめ
このように東京首都圏には世界で考えられないような都市鉄道網が発達しており、外国人がそれを見て、難しすぎて理解できないという反応をするのも無理はありません。しかし、それぞれの路線図のデザインが悪いというわけではなく、これらの全ての情報を1枚の紙に落とし込むことに無理があるというのが実際のところです。ですから、東京の路線図というと、地下鉄の路線図が上がってきますが、それ自体のデザインは非常にすぐれたものであり、決してクレイジーではありません。
今後、さらに外国人観光客が増え、その行動範囲が益々広がっていくなかで、広域でわかりやすい路線図をどう作るかが課題になってくるのではないでしょうか。