学生や社会人になって地方から東京に出て、首都圏の複雑に入り組んだ鉄道路線に頭が痛くなるというのは、よく聞く話です。一方で、関東に住んでいる人が大阪に出張したり、転勤したりして、関西の鉄道網に戸惑うという人も多いはずです。鉄道の運行形態が東京とは全く異なるのです。
筆者の両親はそれぞれ関東と関西出身でしたから、幼いころから東京と大阪を行き来していましたので、その違いを身に染みて感じていますし、何よりその違いを比較することこそが、筆者の鉄道趣味の原点であったということは間違いありません。
東京の鉄道網は、山手線を中心に日本最大の関東平野に放射状に延びているのに対し、大阪の鉄道は、山と海に挟まれた細長いエリアに密集しています。東京に住んでいると、平地は無限に存在しているように錯覚してしまいますが、関東地方と近畿地方の地図を見れば一目瞭然、いわゆる関西圏と呼ばれる大阪を中心とした都市圏に占める平地の割合がいかに少ないかということがわかります。つまり、この狭い平地に複数の鉄道が走っているわけで、それぞれの鉄道、特にJRと私鉄が競合関係にあります。
東京の鉄道マニアは大阪の鉄道を羨むのはもはや定説とも言えますが、多くの乗客を獲得するため、鉄道各社はスピードアップや車両の快適性の向上、乗り継ぎ時間の短縮など、様々な工夫を凝らし、独自の発展をしてきました。これが、東京在住者が大阪で抱く違和感の根本的原因です。しかし、路線自体は多いとは言えず、しかも複数の路線が同じ区間に重複しているわけですから、慣れてしまえば簡単です。そんな大阪を中心とした関西の路線図の覚え方を紹介します。
↓ちなみに東京編はこちら↓
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色分けされていないJR路線図
東京ではJR各線の路線図がそれぞれ色付けされ、ラインカラーとして定着しています。また、それぞれの路線は基本的に独立しているため、一目瞭然で乗り継ぎルートを理解することが出来ます。
しかし、この認識のまま大阪に来ると、多くの人は混乱します。それは大阪のJRの路線図は長らく、東京のようにキッチリと色分けされていないからです。路線ごとのイメージカラーは設定されていますが、明確ではなく、路線図には淡い色を採用し、さらにそれぞれが絡みあっています。
詳細は後述しますが、これはJR各線が複雑に直通運転をしているからです。
似たような色が複数路線に使われていて、慣れないとわかりにくいです。
ただし、2015年から、遠方からの利用者や外国人にもわかりやすくするために、アルファベットの路線記号の導入と同時に、東京のJR路線図に準じた、各線ごとラインカラーを示す単純な路線図に切り換えられています。しかし、実際は直通しているにもかかわらず、各路線を独立した表記にするというのは実態に即していません。よりわかりにくくなったのではないかと個人的には思いますが、ナビゲーションアプリの台頭で、詳細な路線図を必要とするor理解出来る人が減少し、単純化に舵を切ったと言えるのではないでしょうか。
とはいえ、いくらラインカラーが明確になっても、大阪の電車は路線ごとに色分けがされておらず、どの路線も基本的に同じカラーの電車が来ます。ですから、いくらナビアプリを駆使したとしても、実際に駅で、この電車に乗れば大丈夫だ!という直感を働かせられない人が非常に多いのではないかと思います。
回らない大阪環状線
2015年まで使用されていた路線図の大阪環状線の部分に注目してもらいたいのですが、非常にカラフルです。東京ならば黄緑色の山手線がぐるっと1周描かれているだけですので、非常に単純です。厳密には並行して走る埼京線や京浜東北線なども描かれていますが、これらが山手線の線路を走ることは基本的にはありませんので、乗り間違えることもありません。しかし、大阪では、環状線には郊外に延びる路線から様々な電車が乗り入れてきます。
路線図では黄色で示されている阪和線、青色の関西空港線、緑色の大和路線、さらに関空特急「はるか」や、阪和線の特急「くろしお」なども環状線に乗り入れてきて、同じホームから発車するわけですから、初めて来た人は驚くわけです。
大阪環状線は唯一、ラインカラーが定着しており、環状線の新型車両にもオレンジ色が引き継がれていますが、この電車が走るのは日中は15分に1本程度。つまり、環状線という名称に反して、山手線のようにぐるぐる回って環状運転しているのは半数以下なのです。オレンジ色の車両でも、大阪止まりや天王寺止まりも多数存在します。しかも、郊外から直通してくる列車は、基本的に快速列車(関空快速・紀州路快速・大和路快速など)で、環状線内で通過駅もあります。
一番厄介なのは、大和路線の奈良方面に直通する列車で、天王寺から環状線を1周し、再び天王寺に戻ってから大和路線に入って奈良に向かう(逆も同じ)のがデフォルトになっています。知らない人は迷うこと確実です。
様々な行き先の列車がやってくるので、最大5本先の列車を表示します。行き先が「環状」の列車のみ環状運転をします。
とにかく大阪のJRは直通運転が基本!!
大阪環状線にはこのように他路線から多くの乗り入れがあることがわかりましたが、乗り入れが複雑なのは大阪環状線だけにとどまりません。
東京では2000年代以降に「湘南新宿ライン」・「上野東京ライン」の名称で都心を境に分断されていた東海道線・東北・高崎線が直通運転を開始しましたが、関西圏でははるか昔から大阪(厳密には神戸ですが・・・)を境に東海道線(JR京都線)と山陽線(JR神戸線)が直通していますし、1997年に大阪のビジネスエリアを地下で貫通するJR東西線の開業で、これまで京橋に独立していたターミナルを持っていた学研都市線がJR東西線経由で福知山線(JR宝塚線)とJR神戸線に乗り入れるようになりました。同時にJR宝塚線からJR京都線に乗り入れる本数が大幅に増えました。
2019年にはおおさか東線が開業し、現在は活発な直通運転は行われていませんが、将来なにわ筋線が開業すると、新大阪止まりのおおさか東線の多くはなにわ筋線経由でJR難波に入り、そのまま大和路線に直通という、「しゃもじ型」運転の可能性もあり、運転形態はさらに複雑化するかもしれません。ですから、路線ごとにカラーを分けても意味が無いというのも納得できるでしょう。国鉄時代末期には、以下の通り、ある程度路線ごとに車両カラーが決まっている傾向がありました。
JR京都線・JR神戸線・阪和線:水色
大和路線:黄緑色
JR宝塚線:黄色
しかし、複雑な乗り入れの結果、環状線に黄緑色の電車が来ることもしばしば(しかも、「環状」する列車もあり)、JR京都線にJR宝塚線から黄色い車両もやってきます。かえってこれではわかりにくいということで、結局、その後JRになってからは、基本的に各線共通のカラーの車両を導入しており、東京で見られるような各路線のラインカラー=車体色ではなくなっています。
余談ではありますが、ラインカラーへのこだわりが薄いことから、編成内にこれら色の車両が複数入った「混色」の電車を2000年代に入ってからも見ることが出来たのは、鉄道マニアには魅力でした(旧型の車両がほとんど置き換えられたため、今は見られません)。
ラインカラーはここでチェック!!
いくら、ラインカラーへのこだわりが薄いとはいえ、では、どのように旅客案内を行っているのでしょうか。それは、車両の行き先表示器にヒントがあります。厳密には、行き先の隣にある、種別表示の部分です。
一般的には種別ごとに色(快速ならオレンジ、普通なら青のように)が決められていますが、大阪のJR各線では路線のカラーを示しています。最近はLED表示なっている車両も多いですが、フルカラーLEDにより、様々な色を表示しています。この色が唯一、路線図のカラーと一致しています。同じホームに同じ色の電車が続々やってきますが、行き先から方面がわからない場合は、この色を確認してみましょう。
例 路線ごとに色が違う種別表示
なお、2015年に新しい路線図が採用されたときに、路線ナンバリングも設定されました。よって、現在、車両の種別表示は以下のように、アルファベット付きとなっています。
このAから始まるアルファベットが路線を示し、ラインカラーと同じ役割をしているわけですが、ただ、路線名の頭文字ではなく、Aから順に付けられているだけですので、知らない人にはいったい何のことか?とかえってわかりにくいのではないかというのが正直なところです。
例 2015年以降の種別表示
路線図の覚え方
各路線とアルファベットは上の路線図を見ていただきたいのですが、一見、形式的にアルファベットを振ったようなだけに見えますが、一応規則性があります。
【A】北陸線・琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線の東西軸を1つの基幹と捉え、そこから分岐する支線に東側から【B】~【L】を振っています。もう一つの基幹軸が大阪環状線で、そのイメージから【O】となっており、大阪環状線に直通している路線に西九条から反時計回りに【P】・【Q】・【R】、そして【R】と一体的に運行されている関西空港線に【S】が振られています。【T】以降は【R】・【Q】から伸びる支線です。実はこれが、関西圏のJR路線の覚え方にそのまま結びついており、特に大阪中心の路線図をまず叩き込むならば、まず、【A】を基幹に【F】・【G】・【H】を、次に【O】を基幹に【P】・【Q】・【R】・【S】を頭の中で描けるようにしておけば問題ありません。
テクニックとしては、【A】を右上から斜めに引いて、尼崎でXの字になるように【G】・【H】を一気に引く。次に大阪で接するように【O】と、ついでに【P】を書き、大阪の真反対の位置にある天王寺から【Q】・【R】(Q・Rは路線の形のイメージにもピッタリですね)を書けばほぼ完成です。
忘れてはいけないのが、おおさか東線の【F】で、【A】と【Q】を結ぶように引きましょう。これで、大阪近郊とその周辺都市の神戸・京都・和歌山・奈良まで、迷うことなく向かうことが出来ます。
まとめ
さて、ここまで読んで、私鉄の路線図が全く触れられていないではないかと怒る人がいるかもしれません。しかし、初心者にとって、一気にJRと私鉄を覚える必要はありません。何故なら関西圏のJRと私鉄はほとんどの場合で並行しており、JRだけで、あるいは私鉄だけで、どこでも行けてしまうからです。
また、私鉄は私鉄で、関東と真逆に、地下鉄や他の路線との直通運転をほとんど行っていません。ターミナル駅がJRの駅と離れた独立した駅を構えているのも特徴で、駅名が異なっていることも多く、旅慣れていない人はさらに混乱します。まずは、JRでの移動に慣れて、次のステップで私鉄を利用してみるのが効率的かと思います。私鉄の路線図については、また機会があれば紹介します。