中学受験 地理シリーズ。第25回目は『日本の交通の歴史 – 狭くなる日本、近づく世界』です。
前回の講義『日本の交通の歴史 – 街道・鉄道・自動車・飛行機』では、五街道や鉄道の開業、代表的な高速道路を見てきました。今回も引き続き、日本の交通について学習を進めていきます。前回、日本の交通の歴史と移り変わりをおおまかに説明しましたが、今回はそれぞれの交通機関について、長所・短所、また現在抱える課題や最新事情を考えていきます。
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日本の交通の特徴
交通機関には人を運ぶ旅客輸送と、物を運ぶ貨物輸送の2つの役割があります。日本では、かつて旅客輸送では鉄道が、貨物輸送では海運が主役でしたが、旅客・貨物輸送共に、現在最も利用されているのは自動車です。ただし、貨物輸送における海運の占める割合の変化は少なく、ほとんどが鉄道から自動車へのシフトです。
これは、高速道路などの道路網が整備されたことに加え、鉄道のうち、国の運営する国鉄では、1964年の赤字転落以来、合理化を進める本社と現場労働者の間の争いが激化し、本来認められていないストライキが頻繁に発生し、貨物列車がほとんど走らないこともあったからです。そのため、荷主は鉄道から離れ、自動車輸送に切り替えていきました。
また、合理化のために、国鉄自身が人手の多くかかる貨物輸送を縮小し、民営化後、JRになってからは基本的に大都市間のコンテナ輸送以外からは撤退しました。
鉄道の貨物輸送の比率が極めて少ないのが日本の特徴です。
一方、旅客輸送では、新幹線網は全国に張り巡らされていますが、航空との競争が発生しています。それでも旅客の鉄道輸送量が3割ほどを占めているのは、東京、大阪といった大都市での通勤利用者が多いからです。大都市部では鉄道、長距離移動では飛行機、それ以外は自動車という棲み分けが進んでいます。
しかし、大都市部以外で自動車、特にマイカーの利用が増えることは、過疎化と相まって、地方部で公共交通を維持することが困難となり、マイカーを持たないお年寄りや観光客の移動に大きな問題をきたしています。
鉄道のメリット、デメリット
近年、貨物、旅客ともに輸送シェアが減少している鉄道輸送のメリット(すぐれている点)、デメリット(すぐれていない点)は何でしょうか? どんどん書き出していきましょう。
鉄道にはこのような特徴があるため、大都市の人口がたくさん集まっている地域や、大都市間の輸送を除いて、経営を成り立たせることは難しくなっています。そのため地方部の路線は廃線が相次いでいます。新幹線の建設も急ピッチで進んでいますが、その交換条件として、並行する鉄道(在来線)はJRから切り離され、沿線自治体が経営を引き受けることになっています。1997年以降に全国新幹線鉄道整備法に基づき開業した新幹線(整備新幹線)の沿線自治体は、地域の鉄道の維持のため、多額の税金を投入し、運営にあたっています。
私鉄でも都市部以外での経営は非常に困難で、近年では線路などのインフラ部分は県や市が保有し、運行を鉄道会社が行うという、上下分離方式を取り入れることも増えています。また、駅前に駐車場を用意し、駅でマイカーから鉄道に乗り換えてもらうパークアンドライドの取り組みも見られます。
日本の新幹線網
山やその地方の特産物などを由来とした列車名はよく出題されますので、しっかり覚えましょう。
※九州新幹線(長崎ルート)は西九州新幹線に路線名決定(2021/4/28 JR九州発表)
東海道新幹線:東京~新大阪
1964年(東京オリンピックの年)開業
愛称:のぞみ・ひかり・こだま
東北新幹線:東京~新青森間
2010年全線開業 1982年大宮~盛岡間開業
愛称:はやぶさ(320km/h)・はやて・やまびこ・なすの
北海道新幹線と乗り入れ(はやぶさ)
上越新幹線:東京(大宮)~新潟間
1982年大宮~新潟間開業
愛称:とき・たにがわ
北陸新幹線:東京(高崎)~金沢間
1997年(長野オリンピックの前年)長野まで開業
2014年金沢まで開業。2023年頃までに敦賀(福井県)まで開業予定。
愛称:あさま・かがやき・はくたか・つるぎ
山形新幹線:福島~山形・新庄
1992年福島~山形開業(ミニ新幹線)
愛称:つばさ
秋田新幹線:盛岡~秋田間
1997年開業(ミニ新幹線)
愛称:こまち
山陽新幹線:新大阪~博多間
1975年全線開業
愛称:のぞみ・みずほ・さくら・ひかり・こだま
東海道新幹線と乗り入れ(のぞみ・ひかり)
九新幹線と乗り入れ(みずほ・さくら)
九州新幹線:博多~鹿児島中央
2011年全線開業
愛称:みずほ・さくら・つばめ
山陽新幹線と乗り入れ(みずほ・さくら)
九州新幹線西九州ルート:新鳥栖~長崎
※西九州新幹線に路線名決定(2021/4/28 JR九州発表)
武雄温泉(佐賀県)~長崎間2022年開業
時間短縮効果がなく、かつ既存の在来線がJRから切り離される佐賀県内の着工を巡り、費用負担で佐賀県と国との間で争いが生じている。その為、佐賀県内で着工が出来ていない。
北海道新幹線:新青森~新函館
2016年開業 2030年頃までに札幌まで開業予定
愛称:はやぶさ(320km/h)
利用者が少なく、開業以来多額の赤字に悩まされている。
中央新幹線:品川~名古屋(建設中)
2025年開業予定
静岡県との間で大井川の水量減少を巡る問題で争いが生じている。その為、静岡県内で着工が出来ていない。日本で初めての浮上式リニアモーターカー。完成すれば品川~名古屋は30分程度で結ばれる。
関連問題プリント 新幹線と鉄道
自動車のメリット・デメリット
旅客・貨物共に、最も利用されている自動車のメリット・デメリットを考えてみましょう。なお、ここでいう自動車は貨物輸送用のトラック、自家用車(マイカー)、タクシー及び、公共交通のバスなど、全ての自動車を含みます。
自動車はマイカーやタクシーだけでなく、近年ではお年寄りのために細い路地の中にまで入ることの出来るコミュニティバスが運行されるなど、小回りが利くことを活かして、地域住民の為に欠かせない交通機関となっています。同じ理由で、貨物輸送でも1970年代以降に爆発的に拡大した宅配便事業で、輸送量が増え続けています。特に最近は、AMAZON.comなど、インターネットショッピングの流行で、宅配便への需要がさらに高まっています。
一方で、大気汚染や騒音といった問題は去ることながら、ドライバー不足が深刻な問題となっています。そのため、運送業界では様々な工夫が取り入れられています。
貨客混載(かきゃくこんさい)
近年、注目のホットな話題です。地方の路線バスは乗客の減少に苦しんでおり、鉄道と同じく多くの路線が廃止になっています。一方で、宅配便をはじめとした貨物輸送の需要はますます高まっていますが、ドライバーが不足しています。そこで始まったのが路線バスで貨物も一緒に運ぶという取り組みです。地方の路線バスで相次いで貨客混載が始まっています。
モーダルシフト
モーダルシフトとは環境負荷や交通渋滞を軽減するために、トラックによる貨物輸送を船や鉄道に切り替えることを言います。
それぞれの輸送機関の長所を生かして、東京~大阪間、東京~福岡間など、拠点となる区間を鉄道や船で大量に輸送し、そこから先をトラックで運ぶという考え方です。
ドローン(小型無線機)
宅配便の荷物は小型トラックで皆さんの家のすぐ前にまでやってきますが、これをドローンで空から運ぶ実験が続けられています。無人で自動操縦されているため、ドライバーが不要で、道路渋滞も招きません。強風などの悪天候時や、人や電線との接触などの対策が課題です。
自動運転車
道路を走る車は自動運転が難しい分野と言われてきましたが、近年は小型のバスなどを用いて、自動運転の技術が研究されています。完全にドライバーが不要になるのはしばらく先になりますが、まずは前方に安全確認のスタッフを乗せての自動運転が開始される予定です。
まとめ
しばしば日本の鉄道はすぐれていると紹介されますが、実際はそうではありません。誤解して答える生徒が多いですが、現在、鉄道輸送の割合は決して高くありませんので、注意しましょう。人口密度が高く、需要の大きいところで鉄道は強みを発揮しますが、それ以外の地域では、自動車には敵いません。今後も日本の人口が減少してい行く中では自動車の需要がますます高まるでしょう。もちろん、自動車も様々な問題を抱えており、技術革新をなくしては、時代に沿っていくことは出来ないでしょう。電気自動車の開発で遅れる日本ですが、この先どのような技術が登場するのかも、楽しみですね。
この章の関連問題
下記にてこの章の関連問題もご用意しました。
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第25章の問題まとめ
Yotube動画で第25章『日本の交通の歴史』の問題を解いてみましょう!全50問です。