中学受験 地理シリーズ。第19回目は『日本の工業の種類・特徴・歴史』です。
前回の講義『日本の水産業と問題点』では、漁業の種類・漁法と日本の漁業の特徴について見てきました。日本は明治時代以降、「殖産興業」のスローガンのもと、より強い国をつくるため工業化を進めてきました。そして、戦後、世界有数の工業大国となりました。世界中で日本製の車が走っていることからもわかる通り、日本のものづくりは世界からの信頼を集めています。工業は今の日本を語るうえで欠かせない存在です。今回はそんな現代日本を支える工業から、日本の地理を学習します。
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主な工業の種類と特徴
日本の工業を詳しく学習する前に、工業の種類を簡単に頭に入れてください。工業と一括りにしても、様々な工業があり、様々なものが生産されています。日本の工業化を勉強する上で、日本がこれまでどのような製品を作ってきたのかを知るためにも重要です。そして、それぞれの工業に共通する特徴もあります。それは、日本の工業は原料を世界から輸入し、日本で組み立て製品を作る、加工貿易という形態をとっていることです。日本は石油や鉄の原料となる鉄鉱石などの鉱物、つまり資源に乏しい国です。だからこそ、日本は高い技術力と品質で、そのハンディキャップをカバーしているのです。
軽工業
重量の軽い製品、小さな工場で盛んに生産されているものを作る工業です。後に説明する重化学工業以外が軽工業と覚えれば問題ありません。
繊維工業
綿花や生糸(絹)、羊毛などの天然素材や、石油から作られた化学繊維を原料に、糸や織物、衣類を作る工業。
繊維工業の特色
戦前の日本では山間部を中心に養蚕(蚕を飼うこと)が盛んで、蚕の繭玉から作られる生糸を原料に織物を作っており、世界にも輸出されていた。その他にも綿花や羊毛を輸入し、日本で綿織物や毛織物に仕立てる加工貿易も行われていた。戦前、繊維工業の全工業出荷額に占める割合は最大(30%強)で、日本の主力産業だった。しかし、現在は大きく衰退し、全体に占める割合は1%程度である。
食料品工業
農産物や畜産物、水産物を原料に加工食品や酒、また飲料やたばこを作る工業。
食料品工業の特色
港近くや、地方の農村部など都市部以外でも生産がさかん。生活に結び付いた工業であるため、工業出荷額に占める割合は戦前から10%前後で平均的に推移している。
窯業(ようぎょう)
土や鉱物を窯で焼いて製品を作る工業。
窯業(ようぎょう)の特色
伝統的な陶磁器の他に、ガラスやセメントの生産も窯業に含まれる。石灰石など、原料が産出される地域で生産されている。伝統的な陶磁器では愛知県瀬戸市、常滑市、岐阜県多治見市が有名。またセメント工場は石灰石の産地(石灰石は数少ない国内で産出される鉱物)の近く、福岡県北九州地区や、山口県宇部地区、埼玉県秩父地区などが有名。工業出荷額に占める割合は2~3%前後と少ないが、我々の生活になくてはならない工業。
製紙・パルプ工業
木材のチップから紙の原料となるパルプを作り、パルプと古紙から紙や板紙(段ボールなど)を生産する工業。
製紙・パルプ工業の特色
現在の紙づくりは巨大な工場で行われているため、重化学工業と思われがちだが、伝統和紙づくりを発端とする製紙・パルプ工業は軽工業に分類されている。大量の水を必要とするため、富士山の湧き水を活用できる静岡県富士市、富士宮市が有名。静岡県の製紙・パルプ出荷額は日本一。新幹線から見える富士山の手前の工場群はこの製紙・パルプ工業の工場。現在の工業出荷額に占める割合は2%程度。統計上はその他に分類されることも多い。
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重化学工業
重化学工業は重工業(金属工業と機械工業、製品が重いことから)と化学工業を合わせたもので、多くが大工場で生産される。現在の日本の工業の中心。
金属工業
金属の鉱石から鉄やアルミ、銅などの金属を取り出し。それらを板や棒(鉄鋼)などに加工する工業。
金属工業の特色
これらは機械の材料や建築資材になる。1970年以降、中国や韓国におされ、工業出荷額全体に占める割合が減少してきたが、2010年頃からは13%程度で推移している。
機械工業
金属やプラスチックなどを材料に自動車や船舶、電気機器や半導体を生産する工業。
機械工業の特色
1960年代から、増加を続け、現在の日本の工業の中心。工業出荷額全体の5割弱を占める。さらに機械工業の出荷額のうちの5割弱が自動車を含む、輸送用機械が占める。自動車の生産が日本の工業を支えている。
化学工業
石油などの原料を化学的に変化させて製品をつくる工業。輸入されてくる原油(石油)を加熱すると温度ごとに異なる性質を持つ。それを隣接する各工場に送り、製品を作る。
化学工業の特色
プラスチックなど他の工業の素材となる製品や医薬品、ガソリン、ジェット燃料、化粧品の生産も化学工業の一部です。工業出荷額全体に占める割合は10%程度で推移している。
下のグラフは工業出荷額割合の変化を表しています。第二次世界大戦前は、養蚕業から発展したせんい工業が盛んであった日本は、戦後にエネルギーの中心が石炭から石油に変わります。高度成長期を迎えると、せんい工業から金属工業、機械工業、化学工業が発展を遂げます。オイルショックで海外からの原料が高騰すると、組立加工型の機械工業が主となりました。
日本の工業の歴史
日本の工業化、つまり産業革命は明治政府の殖産興業政策によって進められ、1890年代から本格的に開始され(石炭をエネルギー源とする第一次産業革命)、政府がそのお手本として官営工場を建設しました。軽工業の分野では群馬県の富岡製糸場(1872年)、重工業の分野では福岡県の八幡製鉄所(1901年)が代表例です。
また、1882年には大阪に「大阪紡績」が設立されたのをきっかけに20以上の紡績会社(紡績:綿花を紡いで綿糸・綿織物などを作ること)が設立され、大阪は「東洋のマンチェスター」と呼ばれました。日本の初期の工業化は、まずは安価で品質の安定した繊維製品の生産と輸出でした。その後、大正時代に入り、1914年にヨーロッパを戦場とする第一次世界大戦が始まると、製品の発注先として日本が注目されるようになり、造船業などが活気づき、重化学工業化が進展しました。
時代は昭和に入り、第二次世界大戦勃発で日本は空襲などの大きな打撃を受けたものの、終戦からわずか10年足らず、1950年代後半から1960年代にかけて高度経済成長が始まります。イギリスの産業革命からおよそ100年遅れた日本の工業化でしたが、世界的にも驚異的なスピードで成長を遂げ、1980年代には世界で最も競争力のある工業国になったのです。
戦後の日本の工業の流れと重要ワード
中学受験の出題範囲が広く、全てのワードを押さえることは不可能です。特に戦後の工業の流れは大きく変化があるので、押さえるべきポイントを重点的に見ておきましょう。
朝鮮特需
1950年に朝鮮戦争が勃発すると、日本は軍事基地、補給基地の役割を担うようになり、アメリカなどから日本企業に様々な発注が入るようになった。これにより製品の輸出が大幅に拡大し、日本は戦後の不況からいち早く抜け出すことが出来た。また、繊維工業、造船業が特に成長した。
高度経済成長と公害問題
1960年代に入ると、高度経済成長に入り、金属工業、化学工業を中心とした重化学工業が急成長する。しかし、その一方で工場から有害物質が排出されるようになり、周辺住民の健康被害が発生するようになる。また、都会で星空が見えないほど空気が汚れた。特に被害が大きいものが4大公害病と呼ばれる。
公害病 | 発生地域 | 原因物質 | 症状 |
水俣病 | 熊本県水俣市 | 化学工場から流れ出たメチル水銀 | 神経系の障害 |
四日市ぜんそく | 三重県四日市市 | 石油化学工場から出る亜硫酸ガス | ぜんそく |
イタイイタイ病 | 富山県神通川流域 | 鉱山から流れ出たカドミウム | 骨の劣化 |
新潟水俣病 | 新潟県阿賀野川流域 | 化学工場から流れ出たメチル水銀 | 神経系の障害 |
2度の石油危機(第一次オイルショック・第二次オイルショック)
1973年に発生した第四次中東戦争、また1979年に発生したイラン革命をきっかけとして、世界的に石油価格が急騰。これにより、エネルギーを大量に消費する金属工業や化学工業は打撃を受ける。一方で、省エネルギーに対する取り組みが始まる。製品や製造工程の省エネルギー化、また半導体技術も世界に先駆けて開発が進む。その結果、日本製品の性能が上がり、特に日本製の燃費の良い自動車はアメリカを中心として、世界中で売れるようになる。
貿易摩擦と現地生産
しかし、日本製品の売れすぎは問題も生み出した。特に、アメリカ国内では自動車や半導体が出回りすぎて、アメリカ製品が売れなくなってしまった。日本の輸出超過(日本の貿易黒字とアメリカの貿易赤字)を解消せざるを得なくなり、自動車の現地生産(日本メーカーの工場をアメリカに建設し、アメリカ人を雇って自動車を生産する)をするようになる。さらに、1985年頃から為替相場の円高(円の価値が高くなる)が進み、製品の輸出に不利(日本での値段は同じでも、海外に売ったときに値段が高くなってしまう)な状況になる。そこで、自動車を中心とした多くの機械工場が賃金の安い中国や東南アジアに進出するようになり、ここでも現地生産を始めている。
逆輸入と産業の空洞化
現在、自動車などの輸送機械のうち、5割弱が海外生産となっている。海外の工場で生産したものを日本で売ることを「逆輸入」と呼ぶ。また、国内工場が海外に出てしまい、国内産業が衰退している現状を、「産業の空洞化」と呼ぶ。また、これをきっかけに近年アジアの新興国が技術力を付けてきており、テレビやパソコン、スマートフォンなどの電子機器は中国や韓国のシェアが非常に大きくなり、日本メーカーは厳しい状況にさらされている。
第四次産業革命
蒸気機関の発明、石油・電力の活用、そしてコンピューターの登場に次ぐ「第四の産業革命」が現在叫ばれています。これは、モノとモノ、モノと人がインターネットでつながる技術(IoT:Internet of Things)を活用し、機械を自動制御したり(車の自動運転など)、スマートフォンから様々なモノを制御したり、また人工知能を活用することを指します。IoT技術では中国などの新興国が先行しており、日本も技術開発を急ぐ必要がある。
まとめ
今回は、これまでの分野とはやや違う印象を受けたことと思います。なかなか地理とのつながりが見いだせないかもしれませんが、工業地帯、工業地域を学ぶ上の基礎知識ですので、何度も声に出して読んで覚えてください。次回も、地域別の学習に入る前に、現在の日本の産業の中心となっている機械工業をもう一度詳しく勉強します。
この章の関連問題
下記にてこの章の関連問題もご用意しました。
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第19章の問題まとめ
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