中学受験 地理シリーズ。第32回目は『中国・四国地方の自然・産業・世界遺産・交通』です。
前回の講義『近畿地方の自然・歴史・産業』では、近畿地方の自然環境や主な産業、世界遺産などを見てきました。中国地方と四国地方は本来別の地方ですが、瀬戸内には岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県とそれぞれに属する県が含まれています。瀬戸内を挟んでいるものの、穏やかな海であることから、古くから人々の行き来が活発で、非常に結びつきが強いのです。一方、山地を挟む中国地方瀬戸内側と日本海側(山陰)の人の往来は少なくなっています。一見、海を挟んだ方が結びつきが弱いように見えますが、実は逆なのです。高速道路が中国山地を貫通し、交通の便が良くなった今でも、古くから続くこの傾向は変わらず、自然環境が現代においても、我々の生活に大きく影響を及ぼしているのです。
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中国・四国地方の自然環境
中国・四国地方の地形と気候について見てみましょう。本州に位置する中国地方は5県、その南に位置する四国地方には4県があります。中国地方は東西に中国山地があり、これを境に日本海に面する山陰地方と瀬戸内海に面する山陽地方に分かれています。四国地方は、瀬戸内海側と太平洋側で気候が変わります。
季節風の影響で降雪量が多くなる山陰地方、年間通じて温暖な瀬戸内海に面した地域、黒潮の影響で降水量が多く温暖な南部に大きく3つに分かれます。
中国・四国地方の「地形」
中国地方、四国地方には東西に走る中国山地、四国山地により、山陰、瀬戸内、南四国(中学受験では問われない表記ですが、便宜上使用しています)の三つの地域に分けられます。また、瀬戸内の中国地方側の3県を山陽と呼びます。四国山地の方が険しく、中国山地の方がなだらかと紹介しているテキストもあります。また、香川県内にはやはり東西に讃岐山脈が連なっています。海に面した主要都市は平野上にあり、中国山地の麓には盆地も存在します。
覚えるべきは上記の山地、山脈の他、以下の平野とそこをながれる川です。また山陰地方には汽水湖の宍道湖と、特徴的な地形である鳥取砂丘、またカルスト地形で有名な秋吉台が存在します。
- 広島平野:太田川
- 徳島平野:吉野川 ※別名「吉野三郎」三大暴れ川の一つ。
- 讃岐平野:香川用水 ※大きな川のない讃岐平野に吉野川の水を引く。
- 高知平野:仁淀川
中国・四国地方の「気候」
「山陰」は冬の北西の季節風の影響で冬の降水量が多く、「南四国」は黒潮(日本海流)の影響で比較的温暖で、夏の南東の季節風と台風、また梅雨の影響で夏の降水量が多くなっています。中国山地と四国山地に挟まれる「瀬戸内」は年間を通して降水量が少なく、香川県は日本一晴れの日が多い県です。
「晴れの国」のキャッチコピーで知られる岡山県は降水量1㎜未満の日が日本一多い県とされています。
中国・四国地方の産業
中国・四国地方の主な産業を見てみましょう。四国山地の林業や高知平野の野菜の即成栽培が盛んで、カツオ、マグロなどの遠洋漁業が行われ、農林水産業が中心です。工業はあまり発達していません。
中国・四国地方の農業
おおまかに3つの気候区分に分かれ、その地域の特性に合わせた作物を栽培しています。生産場所と栽培方法をリンクさせながらしっかりと覚えていきましょう。
野菜の促成栽培
温暖な気候の高知平野ではビニールハウスを利用してなす・ピーマン・きゅうりなど、夏野菜を他の生産地より先に出荷する促成栽培を行っています。このうち、なすの生産量は高知県が日本一です。なお、ビニールハウスを使った農業を施設園芸農業と呼びます。収穫された野菜はトラックで大阪や東京など大都市を中心に全国各地に発送されています。教科書や受験用テキストには、未だにカーフェリーで出荷されるとありますが、高速道路の開業により、高知港を発着するカーフェリーは2000年代初頭までに全て廃止されています。
みかん栽培
愛媛県や瀬戸内の島々の海沿いの山の斜面段々畑ではみかんの栽培がさかんです。特に愛媛県産のみかんは「いよかん」の名前で知られています。しかし、斜面上の畑は重労働で、高齢化も重なり、近年は生産量が減少しています。さらに外国産のオレンジとの競争にもさらされており、みかん農家は厳しい状況に置かれています。
岡山平野の農業
讃岐平野と共に降水量の少ない岡山平野では果樹栽培が行われています。 ぶどうやももの栽培がさかんで、岡山県はぶどうの生産量が全国4位です。ぶどうの中でも温室ぶどうに分類されるマスカットの生産量は日本一です。ちなみに、岡山県は桃太郎伝説の発祥の地でもあります。
讃岐平野の農業
降水量が少なく、讃岐平野を流れる大きな川がないため、古くはため池を作って、水を貯えながら農業が行われてきました。今からおよそ1300年前の飛鳥時代につくられ、弘法大師の名前で知られる空海が改修した満濃池は日本最大規模のため池で特に有名です。1974年に吉野川からの水を引く香川用水が完成し、讃岐平野でも稲作が出来るようになりました。
鳥取県の農業
鳥取砂丘周辺は水持ちが悪く、農業に不向きな土地でした。しかし、スプリンクラーなど、かんがい設備の整備で、農業が出来るようになりました。しかし、いずれも水はけのよい土地でも育つ作物です。代表的なものは、日本なし、らっきょう、すいかなどです。
鳥取県の代表的な農産物である日本なしは全国5位です。鳥取で生産されている品種の二十世紀梨は、日本トップの生産量、出荷量で海外にも広く輸出されています。
中国・四国地方の水産業
波の穏やかな瀬戸内海では、養殖業、栽培漁業がさかんです。広島県ではかきの養殖、愛媛県ではまだいの養殖が盛んで、いずれも日本一の漁獲量を誇っています。また、汽水湖である宍道湖ではしじみの養殖も行われています。鳥取県境港市の「境港」は日本海側で水揚げ髙最大の港として知られています。
中国・四国地方の水産業についてよく出題される問題を少し解いてみましょう。
問題1 漁業の種類のうち、養殖業と栽培漁業の違いを答えなさい。
▼ 解答をみる
中国・四国地方の工業
瀬戸内工業地域
瀬戸内海沿岸に工業都市が点在しています。海上輸送の便がよいことから、原料・製品の輸送に便利で、塩田跡、軍用地からの土地の転用で大きく発展しました。関東内陸工業地域に次ぐ、出荷額日本第4位の工業地域です。石油化学、鉄鋼業が中心で、岡山県倉敷市、山口県周南市、山口県岩国市には「石油化学コンビナート」が立地し、巨大工場が連なっています。
- 特に、倉敷市の「水島コンビナート」が出題されることが多いので必ず覚えよう!
覚えるべき重要都市
中国・四国地方を支える都市を発達している工業・産業と共に合わせて覚えておきましょう。全国で見てどのくらいの割合を占めているのかまで押さえておくと安心です。
- 岡山県倉敷市(水島):鉄鋼・自動車・石油化学
- 広島県呉市:鉄鋼・造船
- 広島県広島市:自動車
- 山口県岩国市・周南市:石油化学
- 山口県宇部市・山陽小野田市:セメント
- 愛媛県今治市:繊維(タオル)
- 愛媛県四国中央市:製紙
戦後に、多くの化学工場や石油工場などの石油化学コンビナートが発達し、瀬戸内工業地域になりました。コンビナートは海外からの輸入に便利な沿岸部にあります。
中国・四国地方の工業についてよく出題される問題を少し解いてみましょう。
問題1 石油コンビナートとは何ですか?説明しなさい。
▼ 解答をみる
中国・四国地方の世界遺産など
中国・四国地方の世界遺産などを見てみましょう。中国・四国地方には3つの世界遺産があります。それぞれの背景と共に場所と名称を押さえておきましょう。背景を知ることは歴史の流れを知ることにもなります。
原爆ドーム(広島県)
第二次世界大戦(太平洋戦争)末期、アメリカ軍に原子爆弾を投下された広島市。市内の原爆ドームは負の遺産として1996年に世界文化遺産に登録されました。
厳島神社(広島県 宮島)
平家からの信仰を受け、平清盛により現在の海上に立つ大規模な寝殿造り様式(平安時代貴族の邸宅建築様式)を取り入れ現存の規模に造営されました。海の中に立つ、赤い大きな鳥居は誰もが一度は見たことがあるのではないでしょうか。日本人からは古くから「安芸の宮島」と親しまれ、日本三景の1つに数えられていましたが、1996年に世界文化遺産登録されました。日本三景で、世界遺産に登録されたのは厳島神社が唯一です。
石見銀山(島根県)
2007年に世界文化遺産登録。登録名は「石見銀山遺跡とその文化的景観」。戦国時代後期から江戸時代前期にかけて栄えた日本最大の銀山です。山を崩したり森林を伐採したりせず、狭い坑道を掘り進んで採掘するという、環境に配慮した生産方式が評価され、アジアで初の産業遺産としての登録例となっています。
※画像は石見銀山資料館になります。
中国・四国地方の都市と交通
中国・四国地方の交通事情や問題点を見てみましょう。広島市は人口120万人の地方中核都市で、中国・四国地方の経済、文化を支えています。第二次世界大戦で原子爆弾が投下された街として、世界で唯一の被爆国である日本の平和をリードする重要な都市です。
中国・四国地方の政令指定都市
中国・四国地方には2つの政令指定都市があります。1980年に認定された広島市、2009年に認定された岡山市です。全国の政令指定都市と合わせてしっかりと把握しておきましょう。
- 岡山県:岡山市
- 広島県:広島市
過疎化
人口が集まる岡山市や広島市、高松市、松山市がある一方、山陰、南四国の地域では過疎化、高齢化が進行しており、地域コミュニティの維持が困難な「限界集落」も多く存在します。鉄道、バスが廃止となり、日本では長らく認められていなかったいわゆる白タク(自家用有償旅客運送)を認める地域、またオンデマンド交通の実験に乗り出している市町村もあります。
自家用有償旅客運送
バス・タクシー事業が成り立たず地域における輸送手段の確保が必要な場合に、必要な安全上の措置をとった上で、市町村やNPO法人等が、自家用車を用いて提供する運送サービス。
オンデマンド交通
特定の区域内で利用者の要望に応じて、最短ルートを運行したり、利用希望のある地点まで送迎したり(路線図や時刻表が存在せず、スマートフォンのアプリなどから車両を呼び出す)する輸送サービス。小型のバスやミニバンを使います。
本州四国連絡橋
瀬戸大橋(児島・坂出ルート:鉄道と道路の併用橋)、明石海峡大橋・大鳴門橋(神戸・鳴門ルート)、しまなみ海道(尾道・今治ルート)の3ルートが開業。一方で、橋の通行料金の値下げの影響もあり、既存のフェリー航路が廃止になり、公共交通で瀬戸内海やその島々を行き来出来なくなるなどの問題も発生しています。
中国自動車道
中国山地を東西に貫く高速道路。高速道路沿いに工場が進出するようになるなど、地域が活性化した面も見られます。大阪府吹田市から兵庫県、岡山県、広島県、島根県を通り山口県下関市に通じる高速道路です。総延長は540.1kmで高速道路の中では東北自動車道に次ぐ長さです。山肌を縫うような設計のためカーブやアップダウンが多く、、最高速度は80km/h以下の区間多めです。
山陽新幹線
中国地方の瀬戸内側の主要都市から京阪神、九州地方を結びます。新大阪駅から博多駅までを結ぶ路線です。新幹線の問題は、何県を通っているか、どこからどこを結ぶのか、駅名などが出題されます。路線図を見ながら、しっかりと確認しておきましょう。
まとめ
山陰、瀬戸内、南四国それぞれで異なる側面があることがわかったのではないでしょうか。そして、大阪や東京という大都市に直接繋がる都市は栄える一方で、山を越えなければ到達できないという地域は人口の減少が続いています。しかし、これは新幹線や空港を作ったからと言って改善出来るわけではなく、現在の日本が抱える大きな問題です。日本の様々な事象が凝縮されているのが中国・四国地方です。そういう意味でも、この地域の学習は非常に重要なのです。
この章の関連問題
下記にてこの章の関連問題もご用意しました。
何度も解いて知識を体に染み込ませましょう。
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第32章の問題まとめ
Yotube動画で第32章『中国・四国地方の自然・産業・世界遺産・交通』の問題を解いてみましょう!全50問です。