中学受験 地理シリーズ。第14回目は『日本の農業② 稲作の問題点』です。
前回の講義『日本の農業① 稲作』では、米どころと、代表的な平野について見てきました。日本人の主食たる米。私たちは毎日、日本で生産される米を食べていますが、日本の米作りは現在、大きな問題を抱えているのも事実です。当たり前のように存在するために、あまり気づくこともないですが、米の消費量は年々減っています。パンや麺類など、小麦製品を食べることが増えてきたからです。小麦はほとんど日本で生産されていませんから、必然的に食料を輸入する割合が高くなっています。
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減少する米の生産量
日本の農家は他の産業に比べて仕事が大変な割に収入が少なく、農家をやめる人が増えています。これは、日本の1農家当たりの農地が小さく、大規模な機械化などが出来ないことが起因しています。米の生産量も減り続けており、産出額ベースではかつて最も多いのが米でしたが、現在は畜産、野菜に次いで3位に落ちています。
特に1995年以降の減少が大きく、現在までに半分以下に減っています。
米生産減少の背景
国内のコメの生産量減少には大きく2つの要因が挙げられます。ひとつずつ解説します。
(1)食生活の西洋化
日本人の食生活は戦後大きく変化しました。和食中心の食事から、洋食を始めとする様々なメニューが生活に取り入れられるようになりました。これを食生活の西洋化と呼びます。
主食のごはんに、焼き魚、野菜の煮物、みそ汁というメニューは今でもありますが、皆さんはどれくらいの頻度で食べているでしょうか。また、戦後の学校給食では、アメリカからの指導もあり、ご飯の代わりにパン・牛乳というスタイルが定着しました。この結果、パンや麺、肉、乳製品、油や砂糖の消費量が増えていきましたが、主食として米を食べる量が減り、日本人の米ばなれが進みました。現在の日本人の米消費量は1960年と比べて半分以下に減少しています。カロリー摂取量に占める米の割合はわずか22%にまで低下しています。
国の対策:減反政策
米の取れすぎと値崩れ(値段が安くなりすぎる)を防ぐために、米の生産量を制限する政策。休耕(田んぼを休ませる)や、転作(米の代わりに、大豆や小麦などの生産)を推奨する代わりに、農家に補助金を支給。1970年に開始されたが、2018年に廃止された。
秋田県 八郎潟干拓事業と大潟村
かつて秋田県には琵琶湖に次ぐ、日本で二番目に大きい湖が存在していました。しかし、この湖は米の増産のために、干拓され陸地化、大潟村となりました。なお、残った部分(八郎潟)は現在、日本で18番目の大きさです。
1957年に着工し、約20年をかけて完成しましたが、その間に日本の食糧事情、農業事情は大きく変化し、完成時には既に減反政策が開始されており、国の政策の矛盾に農家は翻弄され続けてきました。条件の悪い中、畑作に切り替えた農家もあります。
(2)国の対応
1960年代以降、日本人1人あたりが消費する米の量は減少していく一方で、米の収穫量は増加してゆきました。そのため、米が次第に余るようになってきます。しかし、日本人の主食である米は非常に重要であるため、米の流通は国が管理し、天候不良等の不作に備え、一定の在庫を蓄えてきました。これを食糧管理制度と呼びます。
食糧管理制度(食糧管理法)
国民の主食である米を政府が責任を持って管理する制度のこと。農家に対し、米作りを安定して続けていけるようにする、また、消費者に対しては1年間を通して安定して米を供給すること。いわば生産者から政府が米を高く買って消費者に安く売るしくみ。しかし、米の消費量減少で、在庫米を抱えすぎ、国の赤字は1兆円近くまで膨らんだため、1995年に廃止(その結果、1995年以降の米生産量も一気に減少)。
実際にはこの流通ルートに乗らないヤミ米というものも一定量存在した。
新食糧法
食糧管理制度の反省から、1995年に食糧管理法は新食糧法に名前を変えます。これまで、国は米を全て農家から買い取っていたのが、緊急用の備蓄米のみを買い取り、備蓄することに改め、市場に出回るのは自主流通米がメインとなりました。また、これまで農家が農協などを介さず、直接流通させていたヤミ米と呼ばれていたものも、計画外流通米として、合法化されました。これで、スーパーやコンビニで米を買えるようになった他、町の米屋が次第に姿を消してゆきました。
新食糧法のポイント
- ① 米の流通は自主流通米を中心とする。
- ② 農家による米の生産と流通が大きく自由化される。
- ③ 農家や流通業者が自由にお米を売っていくことができるようになった。
- ④ 2004年の改定で農業関係者以外でも米の流通・販売に参加できるようになる。
- ⑤ 価格は市場原理(需要と供給のバランスにのっとって決めること)に従う。
新食糧法についてよく出題される問題を少し解いてみましょう。
問題1 米の農家にとって新食糧法のデメリットも存在します。それはどんなことでしょうか。
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外国からの圧力
「食料自給率」という言葉を聞いたことはありますか?
詳しくは、次回以降で学習しますが、その食料がどれだけ自国産のもので賄われているかという割合です。基本的に戦後の日本の食糧自給率は極めて低くなっていますが、米に関して言えばほぼ100%です。米が余っている状況なのですから当然ですが、厳密に言うと米の食料自給率は約97%です。つまり、3%はわざわざ海外から米を輸入しているのです。自国の米が余っている中、どうして米を輸入しているのでしょうか。
米作りは日本の聖域
いくら米の消費量が減ったと言っても、米作りは日本の重要な農業であることに変わりはありません。そのため、より値段の安い外国産の米から、日本の農家を守らなければなりません。そこで日本政府は米のみならず、米をはじめとした農産物を外国から輸入する際には「高い関税」をかけてきました。高い関税をかけることで、値段が高くなり、国内で流通するのを避けることが出来ます。しかし、海外から輸入自由化を押す動きが強まり、ついに「米の一部輸入自由化」に踏み切りました。
米の輸入自由化の理由
車を始めとした工業製品などの日本の輸出超過(主にアメリカとの間)が理由です。日本がモノを売りすぎて、相手国が貿易赤字になることを「貿易摩擦」と呼びます。その結果、外国から農産物の輸入をするように求められました。
きっかけは「平成の米騒動」(1993年)
東北地方を中心とする冷害の影響で国内の米が大凶作となり、政府は緊急に米の輸入(250万トン)を行った。当時、店にタイ産の米しか並ばないという異常事態だったが、米の輸入をしないという原則が崩れ、これを機に輸入自由化への圧力がさらに高まった。
1995年に「ミニマムアクセス」が設定される
ガットウルグアイラウンド(貿易の自由化や多角的貿易を促進するために行われた多国間通商交渉)にて、米の最低限輸入量、ミニマムアクセスが設定される。現在、年間77万トンの米の無関税輸入を課せられている。
なお、ミニマムアクセス以上の輸入に対しては引き続き高い関税をかける。
1999年に「米の輸入自由化」が開始
米の輸入自由化。1キログラムにつき341円の関税を払えば自由に輸入ができるようになった。しかし、それでも値段が高すぎるため、実際にはほとんど輸入は行われていない。ミニマムアクセス米は、日本人の味覚に合わないなどの問題があるため、政府は処理に苦慮している。基本的には家畜飼料用や発展途上国支援用などに回しているのが実態である。なお、牛肉とオレンジは1991年に輸入自由化されており、安価な焼き肉店が増えたり、果汁100%のオレンジジュースが気軽に飲めるようになったりと、私たちの生活へのメリットも大きい。
将来的には完全自由化?環太平洋経済連携協定(TPP)
太平洋に面した国々が貿易、サービスを活発にする取り決め。2017年1月にアメリカのトランプ大統領が参加を取りやめたことから、現在は「TPP11」と呼ばれている。
- 参加国は輸入品への関税の廃止、輸入量の制限をなくすことが義務付けられている!
米の輸入についてよく出題される問題を少し解いてみましょう。
問題1 レストランに行くと、入り口やレジの付近に、「当店で使用する米は国産です」という表示を見かけます。これが始まったのは2011年からで、ある法律が関わっています。その法律名と役割を答えなさい。
▼ 解答をみる
まとめ
これまでに日本政府に守られていた日本の米作りですが、この数十年で大きく状況が変わりました。国内の消費量が今後も大きく増えることは考えられづらく、米農家の数は今後も減少してゆくことでしょう。一方で残った農家では、より消費者に求められる米作りが求められ、地域間での競争が激しくなってゆきます。我々消費者にとっては、よりおいしいお米を食べられるようになるのは良いことですが、将来にわたって日本のお米を食べられるようにするために、今私たちに何が出来るのか、しっかり考えてゆきたいものですね。
この章の関連問題
下記にてこの章の関連問題もご用意しました。
何度も解いて知識を体に染み込ませましょう。
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第14章の問題まとめ
Yotube動画で第14章『日本の農業』の問題を解いてみましょう!全50問です。